ぬか床を使った料理があるのをご存知ですか?北九州地方に古くから伝わる料理で、青魚を長期保存するために考えられた調理法です。お正月やお酒の席など特別な時に食べられることの多い料理ですが、ぬか床を持っている方でしたら簡単に作ることができます。
1.「ぬか炊き」とは?
みなさんは「ぬか炊き」ってご存知ですか?「ぬか炊き」とは、糠みそを煮付けのだし汁として新鮮な鰯や鯖、キビナゴなどを炊いた料理で、北九州市の小倉や門司から筑豊や京築にかけての郷土料理です。筍やこんにゃく、キヌ貝、ワカメの茎、ちりめんなどを用いることもあります。
江戸時代の初めに小倉藩主・小笠原忠政公が、前任の信濃から、ぬか床を持ち込んだことで、ぬか漬けやぬか炊きといった「ぬか文化」が小倉に広まったと言われています。ぬか床の材料は米ぬか、昆布出汁、山椒の実、唐辛子などです。小倉では嫁入り道具として母から子に引き継がれ育てられてきたぬか床も多いです。中には材料を追加しながら数百年守り続けられている味もあるのだそうです。
一部の地域では「ぬか炊き」のことを「じんだ煮」と呼びます。「じんだ」とは北九州の方言で「ぬか」を意味します。話は逸れますが「ぬか炊き」から「ぬか」を外して食べると福井県の「へしこ」に似た感じになります。どちらも日本酒、焼酎によく合います。
2.「ぬか炊き」の栄養
糠みそ由来のアミノ酸や有機酸の旨味が魚と合わさるのに加えて糠みその発酵臭や乳酸によるpHの低下によって材料の青魚特有の臭みが抑えられています。「ぬか炊き」は魚の骨まで軟らかく煮込んであるのでカルシウムも効率よく摂取することができます。また青魚、特にその脂肪に共通して含まれるEPAやDHAは血液中の中性脂肪値やコレステロール値を低下させて血流を良くし動脈硬化の予防に役立ちます。EPAには関節リウマチの炎症を鎮める働きもあります。DHAには脳を活性化させる働きもあるので学習機能の向上や老人性痴呆症の予防にも役立ちます。
青魚を具体的に見てみると鰯は青魚の中でも特にEPAやDHAを含みます。鰯のタンパク質、イワシペプチドには強い血圧硬化作用がありますし、骨を丈夫にするカルシウム、血圧やコレステロールを下げるタウリン、カルシウムの吸収を助けるビタミンDなどが含まれています。
鯖は10月から12月にかけて「脂がのっている」時期にもっともEPAを含んでおり、その量は他の青魚の3、4倍にものぼります。また鯖の血合いにはビタミン、ミネラルが豊富に含まれており動脈硬化の予防や老化防止、美肌を保つ効果もあるビタミンB2は青魚の中でも最も多く含んでいるのです。また余分な塩分を体外に排出するカリウムやコレステロール値を下げるタウリンなども含んでいます。
キビナゴにはDHA、EPA以外にもビタミンDやカルシウム、マグネシウム、リンなどが含まれています。ビタミンDは前述したカルシウムの吸収を助ける役割以外にも神経伝達や筋収縮を正常化させる働きもあります。そしてキビナゴにはビタミンB6が比較的多く含まれています。ビタミンB6はタンパク質を分解と合成を補助する補酵素として働きます。ビタミンB6が欠乏すると皮膚や髪、爪などが荒れたり免疫力が下がってしまいます。
「ぬか炊き」の美味しさを作り出す乳酸菌ですが、実は乳酸菌には植物性乳酸菌と動物性乳酸菌の二種類があるのです。ぬか床に含まれる乳酸菌は植物性乳酸菌の方です。動物性乳酸菌はほとんどが胃酸で死滅し腸まで届かないのですが、ぬか床の「植物性乳酸菌」は動物性乳酸菌の10倍もの腸内生存率なので腸まで確実に届いて整腸作用を発揮します。またぬか床はビタミンB群、ビタミンE、ビオチン、パントテン酸、フィチン酸、カルシウム、鉄などを含んでおり人体を弱アルカリ性に戻して体調を整える作用があります。
3.「ぬか炊き」の作り方
鰯を用いた「ぬか炊き」の作り方をご紹介します。
【材料】
・鰯・・・10〜12匹
・醤油・・・100mL
・みりん・・・100mL
・酒・・・100mL
・砂糖・・・大さじ5
・ぬか床・・・ひとつかみ
・唐辛子・・・適量
・山椒・・・適量
(人により好みで)
・生姜・・・適量
①鰯の頭と内臓を取り除いてよく洗います。この時80℃程度のお湯をかけた後、冷水で洗ったり、薄い酢水で一度茹でこぼすなどの処理をすると青魚独特のクセが抜けて上品に仕上がります(繊細な味の料理、というわけではないのでこの過程は省いて構いません)。
②醤油、みりん、酒、砂糖、唐辛子、山椒(好みに応じて生姜など)を入れて煮ます
③煮て沸騰したら火を止め、8時間ほどそのまま保温します
④保温が終わったら鰯だけを耐熱容器に入れ、残った煮汁を小鍋で1/3になるまで煮詰め、糠を入れて適当な硬さにします。
⑤耐熱容器の鰯に、先ほどの煮汁をかけて炊き込んだら完全です。
魚の臭みが無いのに濃厚な味わいで箸が進む「ぬか炊き」はアレンジするにも格好の材料です。混ぜおにぎりやお茶漬けの具材として「ぬか炊き」を入れてみたり、野菜や肉と一緒に炒めて回鍋肉風にしてみたりできることはもちろん、パンに挟んで「ぬか炊きサンド」を作ることもできます。
さいごに
昔はどこの家庭でも身近な存在であったぬか床ですが、時代の流れと共にぬか床を作らない家庭も増えてきました。そのため、お店の「ぬか炊き」を買って楽しむ家庭も多いようです。そんな「ぬか炊き」の地元、北九州ではぬか炊きのソースまで販売されているのです。
仕出し弁当をメインとする「弁当の丸ふじ」が煮魚にかけるだけでぬか炊きの味になるというソースを2016年の12月から300mL入り864円で販売しています。魚以外にもコロッケ、ハンバーグ、唐揚げ、かき揚げなどにも合う味だそうです。「ぬか炊き」の味を手っ取り早く味わいたい人にはもってこいですね。
それぞれの家庭独自のぬか床が材料となるので「ぬか炊き」のレシピも作る人やお店によって様々です。共通している材料がぬか床、醤油、砂糖、みりんで、魚を煮込んだ後には長時間保温するという点ぐらいでしょうか。
お店の「ぬか炊き」ともなると保温の間も細かに味つけをしなくてはならない大変手間のかかるものだそうです。簡単な作り方ですが奥の深い料理である「ぬか炊き」、ぜひみなさんも色々な味を試してみてください。
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